全部恐いけど何かしたい




「ごめん…その……」
 手の中のものを握り締めることもできず、石清水は俯いた。汗がたらたらと目の側や首筋を伝った。顎まで滴ったものがぽたりと落ちた。祇園の背筋は震えた。石清水は汗が目に染みたのか泣きそうな顔で、ごめん、と繰り返した。
「ごめん…怒らせるつもりなくて…その…絶対嫌じゃないんだけど、どうしたらいいか分からなくて…」
 大きな身体がかがむ。手が解けて勃起したものが見える。自分のそれを石清水も自分もまじまじと見つめている。非現実的な気がした。事実、時計はもう夜を回っているのに明るすぎる窓の外が、夕立がいつまでも降り続けて世界中淡いオレンジ色に染まっているのが既に非現実的だった。
 石清水が震えながらキスをした。祇園の下腹が震えた。キスの刺激にもだが、先端にキスをした石清水の持ち上がったその顔がちょっと笑っていたからだ。
「それ」
 祇園は相手の目を見つめ、言った。
「もっぺん、しろよ」
 従順だった。自分よりも恵まれた体格の男が祇園の言うなりにそれにキスをした。互いに同性である証に、それまでの感情を全部放り投げる勢いで何より石清水を怯ませた勃起に、しかしその石清水が今は熱心に唇をつけるのだった。いいのかどうか祇園には分からない。だがもう堪えられない。眼下で揺れる色の淡い柔らかな髪を掴んで祇園は言う。
「なあ、口開けろよ」
「えっ……」
「舐め…」
 舐めろという言い方はいかにもAVっぽく、常に直截な言い方をする祇園さえ躊躇させた。石清水の目に怯えが走る。手の中のものを包み込み、目を伏せる。
「じゃ、そんまま」
 とうとう祇園は自分の手を添えた。
「もう無理だから、俺」
「えっ、だめ…」
「しょーがねーだろ」
 手が重なり合って掴む。祇園は睨む。石清水はまた気弱そうな顔をして手を退けるが。もっと深く身体をかがめる。勃起を握り締めた祇園の手の上を石清水の舌が舐める。息が震えている。しかし。
 ――ちょっと笑ってる…。
 ゾゾッと腰の辺りで冷たいものが疼いた。
 石清水の顔はすぐそばにあった。構わず祇園は擦った。出る瞬間、掌で押さえようとしたが間に合わず目の前の顔や髪にそれがかかった。石清水は息を切らせていた。祇園のコントロールを完全に外れたそれに両手で触れ、先端を吸った。思ったより大きな音がして、真っ赤になったのは石清水だけではなかった。祇園もだった。むしろ石清水の方が、頬を赤くしながらもキスを続けた。祇園はようやく石清水の首より下に意識が向いた。股間に染みがある。
「お前…」
「なんか、夢見てるみたい」
 ふふ、と息を吹きかけながら石清水はゆるく笑う。
「夢精した時、みたい」