140文字で私を食べて




《イナイレ/ふどふゆ》
「あきおくん、私を食べて」
 ソファにだらしなく仰向けになった冬花の口から物憂げな呟きが漏れた。不動は服を着る手を止めて振り返り、無表情な横顔を見つめる。曇った瞳は天井より高いどこか遠くを見ていた。
「もう喰った」
「足りないわ」
 首を傾け冬花は微笑する。
「明王くんが狼だったらなあ」

《ダン戦/ジンユウ》
 降り積む雪が窓も窓枠も窓の外も白く埋めてしまい、閉じ込められたかのようなイェーテボリの冬。ユウヤは冷たい窓ガラスに頬を押しつけて初めての感触を味わっている。瞼が持ち上がり暗い色の瞳がジンを見た。
「もしも世界が凍ったら、ジン、ぼくを食べてね」
「莫迦を」
「君が生きてないと困る」

《SBR/ジャイジョニ》
「この嵐が止まなかったら」
 手から落ちたナイフが雪刺さる。ジャイロの膝の先、雪にも負けぬ銀色の殺意の塊。
「ぼくを食べるか?」
 睨みつけるとジャイロの手が、きっと柔らかい指先がナイフの柄を押して刃を深く雪の下に沈めた。
「お前さんがオレを食べるんじゃないのか?」
 目は、まだ笑ってる。

《☆矢/ミルネ》
「ミーノス様、もし冥界への道が解らなくなった時は私をお食べください。塵界の二十余年とは言え、私はバルロンのルネでございます。真冬の夜空のように清い肉体です。どうか遠慮なさることなく」
 お召し上がりくださいますよう……。
 深い囁きにミーノスは眩暈を覚えた。恋人よ、何を語るのか。

《☆矢/ラダカノ》
「オレを喰ってみろよ」
 カノンが笑っている。
「あんたの腹からあんたのベッドまで会いに行ってやるぜ」
「もっとマシな冗談が言えんのか」
「傑作だろ」
 海の水はひたひたと満ちる。二人の間を隔てる。

《HQ/牛及》
「俺を食い尽くしてよ、ウシワカちゃん」
 及川の手は強く握りしめられていた。震えているのかもしれない。直感的にそう思った。思った時には強く掴んでいた。衝撃に目を見開き、しかし及川はすぐに強気の笑みを取り戻す。
「中途半端はゴメンだ」
「及川」
 牛島は低く呻いた。
「俺は覚悟がある」

《DC/クラブル》
 白い荒野だ。白い砂、白い結晶。黒いものは空だけ。そしてブルースの身体だけ。ねえ、とクラークは荒い息を繰り返すブルースの肩を掴んだ。
「僕を食べてよ」
 ブルースの眸が暗闇の中から青く光った。動きは石火。クラークの顎を掴み、己の片手を食い千切る。溢れ出す血を有無を言わさず流し込む。

《葉隠/常陣》
「先生、僕を食べてくださいませんか」
「年々過激になるな、お前は」
 ゆったりと煙草を吸いながら山本が背を撫でてくれるのが好きだ。田代はいつまでも蒲団の上に伏せていられる。寒さは感じない。
「更には」
 じりり、と煙草の捻り消される幽かな悲鳴。
「その気にさせるから始末に悪い」

《土地擬/ながさが》
 すっかり漂白されたシャツが海風にはためく。覗く胸には肋が浮いている。しかし表情は穏やかだった。あどけなく笑う白い着物の女を抱き寄せて佐賀は囁いた。
「俺を食べろ、長崎」
 女は不思議そうに小首を傾げボタンに触れた。脆く崩れる。海風に吹き曝される胸に、女は嬉しげに頬ずりした。

《死神シリーズ/中伊》
 伊能が素直に自分の肉を差し出すとは思えなかった。否、それ以前に同族喰いなど…。中郷は強い乾きを癒やそうと唾液を飲み込んだ。俺が血を捧げた伊能の肉体。あれはまだ若い。俺を喰いに来るかな、と考えてみる。戯れではない。中郷の精神は須臾の間、伊能と戦った。血を啜られる己を幻視した。

《土地擬/ちばなら》
「ぼくを、食べませんか」
 千葉はきょとんとしてあばら家の青年を振り返った。月影の射さない暗がりに白い面が微笑する。柔らかい…。砂を踏む足の裏まで汗ばむ心地がする。千葉は掠れた声を絞り出した。
「冗談を言っちゃいけません。本気になります」
「本気ですよ」
 いけない、と固く目を瞑る。




2017.2