Gargoyle of stacks ←ナツハコ
→ 分館の夏箱

ナツさんにインスパイアされた 断片の諸々
メールフロム春鮫一年半後・編












ヒルセナはデキるまで一年、関係に慣れるまで更に半年かかる
というのが私とナツさんの定説でした、と言う訳で一年半後の彼らの関係
ランダムに性描写を挟んでいきますので、苦手な方はブラウザバックでお戻りください
夏夕の玄関
 駆け込むように乱暴にドアを閉める。ドアの閉まる音と共に、壁に頭をぶつけるかと思
わせる程の勢いで押し付けられ、抱きすくめられた。
 相手の吐息を鼻先で感じる間もなく、噛み付くように唇が重ねられる。相手も随分背を
屈めているが、セナも襟首を引き上げられるように精一杯上を仰がなければならなかった。
 舌が誘うように唇をなぞる。
 しかしセナは固く目を瞑ったまま、片手で必死にヒル魔の胸にすがりつくばかりだ。
「おい…口、開け」
 口付けの合間に急くように言うと、セナの目が薄く開いて、ふるふると首を振った。
「…何でだよ」
「ヒル魔さんの……」
 セナの目は涙で少しうるみ、その霞む視界の中でヒル魔を見つめようと懸命に下から見
上げる。
「…触ってたい…もう少し……お願いします…ヒル魔さん……」
「俺の、どこに?」
 パッと花咲くように顔が赤くなる。ギュッと目を瞑り震えながら答える。
「くっ…くちびる……」
 玄関は少し早い日の暮れ。夏の匂いが少し淋しく感じられるのは、ここが静かで暗く涼
しいから。けれどもセナの首筋には汗が浮き、ヒル魔もそれ程涼しい顔を出来ている訳で
はなかった。
 顔が近づけられる。
「…触れよ」
 セナは伸び上がり、瞼を伏せて唇を寄せた。それは口元に触れた。もう片手が握り締め
ていた鞄を手放す。その手を頬に寄せ、今度こそ唇に触れた。ゆっくりと押し付け、徐々
に上がる体温を感じ、いつの間にかセナは両腕をヒル魔の首に回して何度もついばむよう
に触れ、熱心にキスを繰り返していた。
 ごくりと喉が鳴る。
 爪先立った足が何度もコンクリートの土間を掻く。鼻息が頬に触れるのが既にくすぐっ
たいなどと笑顔を浮かべる余裕もなく、噛み付かれ吸われるのについていくだけでやっと
だ。
 ヒル魔の首にぐんと力がかかる。セナが首にぶら下がるようにヒル魔につかまっている。
拍子に靴が片方脱げた。唇が離れそうになる。
 ヒル魔も踵を擦るようにして自分の靴を脱ぎ捨てると、ぐっとセナの身体を抱え、廊下
に引きずり上げた。身体が反転し、今度はヒル魔が壁に背中を打ち付け、よろめくセナの
身体を両手でしっかりと抱き込む。
 電気のついていない廊下は、リビングのガラス戸からさす残照によって二人のぼんやり
としたシルエットを浮かび上がらせる。静かな沈黙の後、洞窟の奥に響く水音のようなも
のが聞こえた。合間にまるで泣いているような鼻息、セナの声ならぬ声で漏らすうめき。
「靴…が……」
 痺れる舌でようやくそれだけ言うと、
「脱げ」
 とにべもなく返された。
 僅かに顔を背け、片手を伸ばして何とか靴を脱ごうとする。ヒル魔は標的をその反らさ
れた首筋に変え、強く吸い、ついた痕の上に歯を立てた。セナが小さな声を漏らし、首を
すくめる。靴は半端に脱げたまま爪先に引っかかっている。
「……さん」
 微かに名前を呼ぶその喉を開いてやるようにネクタイに指をかける。それは蛇のまとわ
りつく隠靡さでセナの首を滑り、床に落ちた。


廊下
 シャツのボタンに手を掛けようとすると、セナが首を振って遮った。
 黙ってその手を退けると、逆に相手の手が伸びてきて、ヒル魔のボタンを外す。一つ一
つもどかしそうな手付きで。
 そして、足元にわだかまるズボンを踏みつけて伸び上がると、堪えられないという感じ
で、乱れたシャツから覗く肌に口付けをした。猫のように舌で舐める。
「変になりそう…」
 吐息とともに囁かれる。
 ヒル魔はその額に口付けし、耳元で「もう、変だ」と囁いた。言葉が直に耳に吹き入れ
られ、セナが首をすくめる。
「ヒ…ヒル魔さん、部屋に…」
「何だ?」
 わざと聞き返す。
「部屋に…」
「ベッドルームだ」
 セナが頷く。
「余計、変になるぞ?」
 その言葉にもしっかりと一つ頷き、もう一度キスをしようと伸び上がった。


ベッドルーム
「くっ、靴下!」
「はぁ?」
 余裕のない声でヒル魔が返す。
「靴下っ、脱がせてくださいよ…ッ」
 まるで獣が獲物を屠るような獰猛さで覆い被さられ、与えられると言うより、互いに隙
を見つけては噛み付くようなキスを両手で何とか押さえながら、セナは言った。
「靴下くらい…関係ねえだろ」
「そっ…んな」
 抵抗しながらも、キスをされれば、それを返すのに夢中になる。押し返そうと肩を掴ん
だ手が、強く爪を立てている。
 溺れていた深い淵から急上昇したような呼吸。唾を飲み込む音がやけに生々しく響く。
「…いやらしい…」
 セナが呟く。
「褒めてくれて有り難いぜ?」
「ずるい…」
「……そっちの意味か」


ちょっと馴れてなさげな…
「だめっ…できません、そんな…おねが、お願い……怖い……ッ」
 しゃくりあげる。頬がさっき以上に紅潮し、耳たぶまで同じ色に染まっているのが、夜
目に微かに分かる。充血した唇がうわ言のように途切れ途切れの言葉をつむぐ。
「お願い……お願いします」
 震える指が伸ばされる。
「ヒル魔さん……」
 涙で言葉の端がにじむ。
「…何だ?」
「はっ…離れないで……」
「ちゃんと繋がってる」
 その証しのようにそこをなぞると、身体が不安定に揺れ、息が乱れる。涙が胸の上に落
ちる。
「…違う…アッ……違う…お願い…怖い…。独りに…独りにしないでください……」
 新たに涙がこぼれる。子供のように止まらない。
 片肘に力をこめ、僅かに上体を起こすと、思いもしない力の強さで首に抱きつかれた。
「お願いします…お願い……」
 背中に触れてやると、微かに身体が跳ね、締め付けられる。予想外の刺激に思わず息を
つくと、その下でセナも熱い息を吐いた。
 少し考え身体を起こす。
 両手で身体を抱き締めると、情けない声のような吐息が漏れた。
「ああ……あの……ヒル魔さん…」
「何だ?」
「あの……あの……」
 しかし陶然とした声はその続きをつむがない。あの…と呟きながら、首に抱き着いてい
た手は、いつの間にか縋るように背中に爪を立てている。



ブラウザのバックボタンでお戻りください