真夏のメリークリスマスボーリングの空いているレーンのモニターによく映っているもの。スケートボード。サ ーフィンをするサンタクロース。カラーバー。 不意に会話が途切れると、なんとも居心地の悪いような沈黙が八人を支配して、ベンチ に横一列座ったまま、ぼっと空いているレーンのモニターを見つめた。デビルバッツ一年 組、プラス、チアリーダー。皆の座り方はてんでバラバラで行儀の良いものなどいなかっ たけれども、その姿はそれ用にディスプレイされた人形のように妙にしっくりいく調和を 得ている。 「あの格好でサーフィンって、なくねえ?」 黒木がぼつりと呟く。 「まあ、お国柄だろ」 戸叶が返すと、はぁあぁ?、とお馴染みの疑問符。 「オーストラリア」 十文字が助け舟を出すが、分からない。 「アハーハー、オーストラリアのことなら僕に…」 まかせて、と口に出す前に夏彦が鈴音に蹴り飛ばされる。 「どうせコアラとカンガルーしか知らないくせに、知った口きくんじゃないわよ」 「違うよ、鈴音。パンダだよ?」 「なお悪いわ!」 更に蹴りが連続で夏彦の背中に打ち込まれる。黒木がコントローラーでキャラクターを 操って攻撃する真似をする。隣で戸叶が、カッカッカッ、と笑う。 「あれだろ!」 モン太が無意味に天井を指差し、声を上げる。 「オーストラリアはクリスマスが夏にあるんだよな」 「そうそう」 セナが相槌を打つが、その隣でモン太は更に自信ありげにこう叫んだ。 「なんたって八月がクリスマスだもんな!」 「ええ!?」 「ちげーよ」 堪えかねたのか十文字が口を挟む。 「南半球は季節が逆だろうが」 「知ってるよ! 日本が十二月のとき、オーストラリアは八月なのさ!」 「だ・ま・れ!」 復活した夏彦を、鈴音がさっきの倍、蹴り飛ばし、更に尻に敷く。 「だから、あれはオーストラリアのクリスマスの映像だよね?」 セナ。 「おう、オーストラリアの八月だろ?」 モン太。 「お前ら、話聞いてんのかよ…」 項垂れる十文字の隣で黒木が叫んだ。 「だから、オーストラリアは八月が冬なんだよ!」 「まあ、あってるな…」 戸叶がいたわりの気持ちを半分、からかいの気持ちを半分込めて十文字の肩を叩く。 「ブフー」 皆の真ん中に挟まれた小結が紅潮した顔でモニターを見上げ、大きく息を吐いた。 「クリスマスってさ」 セナが前を眺めたまま言った。目の前では、夏彦が派手すぎる投球でガーターを出して いる。何だよ、とモン太はセナの顔を覗き込む。 「クリスマス・ボウル、だよね」 「…だな」 「なーに、しんみりしてんのよう」 鈴音が二人の間に割り込み、腰を下ろす。 「大会始まった途端に、怖気づいた?」 「馬鹿にすんなよ」 モン太が少し本気でむっとしながら鈴音につっかかる。 「分かってるって。皆で行くんでしょ」 「当たり前だ」 「クリスマスか」 ふと静かな声を出したセナを二人は見つめた。足が微かに震えている。 「わくわくするな…」 「そーだぜ、セナ!」 モン太が鈴音を越してセナの肩を掴む。鈴音は二人に挟まれて少し窮屈そうにしたが、 両腕を広げてセナとモン太の肩を組んだ。 「そりゃーもう、盛り上げていくからね!」 「楽しみだな、クリスマス!」 その様子を隣のレーンから、ボールを手に持ったまま十文字が見ている。さっさと投げ ろ、と黒木にせかされようやく投げたが、ガーターだった。 「羨ましいんだろ」 戸叶がぼそりと呟く。慌てて否定するが、ほとんど言葉にならない。顔が赤い。 「もういいよ、落ち着け」 しまいには戸叶から呆れて、ベンチに座らせた。 と、真上のモニターで弾ける光。派手な音楽。ストライク!の声。 「ハ?」 「はぁ!?」 「はぁあぁあ!?」 ボールを投げ終えた小結がベンチを振り返り、あの満足げな表情で一言。 「フンッ!」 三人の血は瞬間沸騰し、ボーリングは白熱。その試合っぷりに皆、注目し、ようやくボ ーリングになれた夏彦がターキーを出したのだが、いまいち目立たなかったのだった。 瀧兄弟とは、ボーリング場の前ですぐに別れた。バスに乗って帰るらしい。一番後ろの 窓から鈴音と夏彦が手を振るのに、セナとモン太と小結はいつまでも手を振り返す。 「俺らも帰るか」 誰ともなし声をかける。 「次の電車って何時だっけ」 セナが時計を見るが、時刻表を知っている者がいない。来た電車に乗ればいーじゃねー か、という黒木の言葉に、なんとなくブラブラと歩き出した。 途中で小結が「こっち!」と声を上げた。 「栗田先輩んちか?」 モン太の問いにブンブンと頷く。 「じゃあね」 フゴッと小結の挙げた手のひらに、セナは自分の手のひらをぶつけさせる。モン太もバ チンといい音をたててタッチした。十文字が黙ってそれを見ている、のを黒木と戸叶が見 ている。 五人が駅に着いたとき、セナとモン太の乗る電車がちょうどホームに滑り込んだ。二人 は走り出そうとし、改札手前で三人を振り返った。 「また明日!」 「朝練でな!」 二人が手を振る。 「おう」 十文字がその手のひらに自分の手のひらをぶつけた。乱暴な叩き方だったが、バチッ、 バチッといい音が駅舎に響いた。 駆け出した二人の姿はあっという間にホームに消える。電車が走り出すのを、十文字は 改札のこちら側から眺めた。 「一ヤード、ゲイン」 戸叶の呟き声が聞こえた。振り返ると、黒木が楽しそうに口笛を鳴らす。 「やるじゃねーのよ」 「貴重な一ヤード」 「クリスマスプレゼントだぜ、あのサーフィンしてる馬鹿げたサンタから」 「ご利益あったな」 「うるせえよ」 十文字はぷいと踵を返すと、さっさと改札をくぐった。残された二人は続いて改札を通 りながら、十文字の赤くなった耳を指差して笑った。 |