PRESENT




 クリスマスケーキのイチゴの変わりにリンゴが乗っていたらいいのに、とリュークが言
うので、小さな焼きリンゴを幾つも買って、イチゴの代わりにケーキに乗せてみると、ひ
どく喜んだ、が焼きリンゴばかり食べてケーキ部分は全く食べなかったため、太郎は一人
でケーキを食べている。
 何のために大きいケーキにしたのか分からない。小さいリンゴとは言えイチゴよりは大
きいから、なるべく大きなケーキでなければ乗らないだろうと思ったし、何より、リュー
クも一緒に食べるものだと思っていた。焼きリンゴばかりさっさと平らげられる光景を目
の前に、太郎は眉間に皺を寄せ、年月が美しく整えた顔を歪める。
 以降、リュークのことを無視した。死神は随分しょげた。
 携帯電話で女性と話をし、急な約束をとりつけ、地下鉄のホームでキスをし、東京タワ
ーを見に行って、帰ってきたのは真夜中過ぎ。部屋に明かりは勿論、ついていない。それ
が寂しいとは思わないが、少し、面白くない気がする。
 マンションのエレベーターは低くうなりながら、太郎を上階へ連れてゆく。マンション
の前に立ったときからリュークの姿は消えた。飛んでいった方が部屋へは早いのだ。
 鍵を開ける、いつもの手ごたえ。しかし扉を開けた瞬間に飛び込んできた、光。
 全ての部屋の明かりを灯し、眩しいほどの、光。
 そのなかにぽつんと死神は佇んでいる。
「おかえり」
「…ただいま」
 太郎は苦笑しながら玄関に入る。
「何? 反省してるの?」
「オレが…全部リンゴ食べたから…」
「リンゴはいいよ。全部リュークにあげる」
「じゃあ」
「もう怒ってないよ」
 太郎は笑い出す。
 冷蔵庫から、冷めた市販のアップルパイを取り出し、二人で分けた。
 テレビは深夜だというのに賑やかだ。聞きなれたクリスマスソング。はしゃぎすぎのア
ナウンサー。太郎はボタン一つでそれら全てをシャットアウトし、鼻歌をかなでた。恋人
はサンタクロース。
「そうそう、リューク」
「ん?」
「ぼく、今日、リンゴ柄のパンツはいてるんだ」
 口の中のアップルパイを思わず吹き出し、うろたえるリュークを見て、太郎は大いに笑
った。