SLEEPLESS BEAUTY


「おやすみ、リューク」
 死の権化は寝台に伏せる前、必ず自分の枕元を見上げ、言った。
 死神はそれに応えはしない。
 丸い瞳が二つ(それは何もかもお見通し)見下ろす下で、
 名は夜神月、死の権化、眠りにつく。
 遠浅のように、どこまでいっても安らぐことのない眠り、
 何度も覚醒し、闇の中で、薄く、目を開き、
 枕元の死神の顔、見えているのか、いないのか、
 僅かに眉根を寄せ、苦しげな口元、静寂の内に収め、再びの眠り。
「おやすみ、リューク」
 安眠を祈る挨拶も無駄に過ぎないのに。

 見下ろす顔。
 何故、こんなにも歪むのか。
 新世界の神の顔、何故微かな苦しみさえ、その顔から取り除けない。
 知っているくせに、知っているくせに。
 何故、挨拶。おやすみ、リューク。静かな声で。穏やかに。
 何も、祈るものなどないのに。
 縋る術も失った、お前は独りなのに。

「だって、人間だから」
 カーテンを越して微かに月の顔を照らす朝の光。
 薄明かりの下、目を開いた月は真っ直ぐ上を向き、死神と顔を合わせる。
「僕は人間だ。リュークが死神で、僕は人間」
 デスノートがその絆、教えてくれたじゃないか。
「人間だから、挨拶くらい、するさ」
「じゃあ、新世界の神になった暁には?」

 緩やかな瞬き。
 早い朝の浅い眠りに再び沈む。
 月の顔を、リュークは見ていた。