ラブ・ビハインド・ザ・ラブ




 イギリスは一言も言葉を発しなかったが、それ以上に饒舌なその所作は、まるで怒鳴っているかのようだった。アメリカはその怒声さえ耳に聞こえるような気がして、玄関の扉に背中を押しつけたままそれを見ていた。久しぶりに圧倒されたのかもしれない。イギリスは上着を脱ぎながら、抜けた腕で、もうベルトを外しにかかっていた。指先一つ、飽くまで紳士的であったはずのその手がネクタイを引き抜き、同時にズボンのファスナーを下ろすと万有引力の法則で床に落ちたそれを踏みつけながら脱いだ。ようやく両手が空き、ボタンを一つ一つ外しているにも関わらず、左右に引き千切る勢いだ。最後に下着を引き摺り下ろし、そこで靴がまだだったことに気づく。彼は足を大きく振った。遠心力を得た革靴は廊下の向こうまで飛び、壁にぶつかって落ちた。イギリスはもどかしげに靴下を脱いだ。左足からだ。そして右足を…。
 かちり、と音がした。アメリカは最後に残った思考のかけらを指先に集中させ、鍵を落とした。そこから先は、彼自身にも御すことのできない思いの奔流に全てが流された。灰色の煙が空を覆うかのような曇天の午後。玄関は暗く、ぼんやりとした全ての輪郭が一層見えなくなり、イギリスの白い身体だけがはっきりと目に入った。アメリカは吠えるような声を上げ、イギリスを両腕で抱き上げた。ちょうどしゃがんだその身体の、膝の下に腕をくぐらせ、丸まった背中を自分の胸に抱き締める。そして吠えながら階段を駆け上がった。全ての言葉は思考として言語化されず、ただ目の前には寝室の扉があり、それを蹴り破る。一発で蝶番が壊れ、扉は部屋の中に倒れ落ちた。それを踏みつけて部屋に入り、ベッドの上に放り出したイギリスの上にのしかかる。
 獣のうなるような声だった。喘ぐように息をし、震える手でイギリスの両頬を挟み、唇を合わせるとすぐにイギリスの舌がもぐり込んできた。手が頬から頭へ滑る。既に乱れきったブロンドを掴み自分の方へ引き寄せる。ぐん、と首が落ちる。より深く唇が重なる。イギリスの腕が首に回されている。舌を強く吸うと、腕に込められる力が強くなった。





つづく