APHであみだくじ全18カプ




《ポー×セーちゃん》

 ちょー二人でプリクラとかありえんくない、と言われて、ありえん感じですなあ、と返した自分も混乱しているんだろうとセーシェルは思った。今日の会議、日本でマジよかった。ポーランドは嬉々として背景にピンクの花柄を選び、二人の周囲にハートを装飾する。多分深い意味はないのよねえ…。何となく脱力しつつもセーシェルは、シャッターの瞬間ポーランドと頬を押し付け合い、心から笑った。


《永世中立兄×仏蘭西》

 聞こえてくるのは銃声ではなくて、PCの微かな唸りと、コインや紙幣の囁きだった。何の用だ、と自分を見上げる窓口の男はいつもの軍服ではなく、手にライフルはなく、アイロンのきいたシャツ、品のいいスーツ、伊達だろうか眼鏡までかけて、全くどこからどうみても銀行家で、フランスはポケットから預金を取り出すのを止め、ネクタイを引っ張りキスをしようとして、行内初の銃声を響かせる。


《ヘラクレス×あんこ》

 暑い、とデンマークは思った。正装で来るんじゃなかった。ロングコートで来るんじゃなかった。でも出発時は寒かった。だから仕方なかった。そもそも出かけた先でギリシアに押し倒される予定などなかった。しかも遺跡の上で。青空を見上げ、ヴァイキングの血が泣く、と思った。ここは風が気持ちいいから大丈夫、というような意味の呟きが聞こえた。コートの襟が開く。悔しいほど風が気持良かった。


《ベラルーシ×HERO》

 私、貴方を赦さないの。と目の前の美少女は繰り返す。私、貴方を永遠に赦さないの。兄さんがあなただけを見ていたなんて信じないの。赦さないの。貴方のことを赦しはしないの、私。「だって、愛してるんだもの」 自分に向けられた告白のようだとアメリカは思った。たとえ椅子に縛られていても。彼女の手の中で鋭い刃が酷薄な光を閃かせていたとしても。俺は、愛せる。何故ならヒーローだから。


《モイモイ×スーさん》

 まさかのパンチは鋭く、そして重くスウェーデンの頬にめり込み、彼はフィンランドの強さを実感すると共に、ああやっぱり最高の嫁だと床に倒れる二、三秒の間に心から思った。背中から倒れ、後頭部を強打し、木の家がズンと揺れる。フィンランドはその上に馬乗りになると、更に拳を振り上げ、そのままおいおいと泣き始めた。号泣だった。ごめんなさい、と聞こえた。夫婦喧嘩はこれっきり、とスウェーデンも、悪い、ごめん、を繰り返し、降ってくる涙に答えた。


《アイス×ノル》

 お兄ちゃん、と呼べば関係が固定されてしまいそうな気がしたという話ではなくて、関係は完全に固定されているのだ、この目の前のDNA検査結果。だからどうと考えるのも憂く、結局、会いに行き、二人で黙ってお茶を飲む。ノルウェーは黙って自分を見つめてくる。美味しかったよ、お兄ちゃん、などと言うものか。しかしここでテーブルを乗り越えキスをするのは自分でも意味不明だと溜息をついた。


《エジプト×香くん》

 口に出せば言葉が通じるのは分かっている。しかしエジプトは黙っていて、香港も黙っている。埒が明かないのでPCを用意した。チャットルームに二人。エジプトからURLが送られてくる。オークションの壺。エジプトが語る壺の蘊蓄にログが滝のように流れてゆく。「パネェ」 香港はモニターから顔を上げ、向かいに座るエジプトを覗き込む。真剣な顔でキーボードを叩いていたエジプトは顔を上げると何故か赤面する。香港は笑い、一言、打ち込んだ。「買った!」


《ヨンス×祖国》

 結局、黙っていることなど出来ないのだ。感情のままに泣き、怒り、そして喜ぶ。笑う。「せめてご飯くらい静かに食べてくれませんか」 日本の訴えは周囲のお喋りというには賑やかな話し声と、勢いよく焼ける焼き肉の音に掻き消され、何より、目の前の韓国はそんなこと聞いていなくて、日本の皿にどんどん焼けた肉を載せている。好かれているのか、嫌がらせなのか分からない。でも韓国は笑顔だ。


《プロイセン×トルコ》

 チェス盤を目の前に二人は静かに腰掛ける。トルコは背もたれに身体を預け、ゆったりとした雰囲気で仮面の向こうから静かな視線を注いでいる。プロイセンは椅子に浅く腰掛けたまま盤上を睨んでいた。僅かに目を細め、思いの外造形の良い顔は張りつめさせ。微かに唇が動き、「チェック」、明確な一言を発して駒が動いた。仮面の向こうで、トルコは目を見開いた。確かに王手だった。
 やがて戦いの終わった盤上にはカップが並び、二人は熱い茶を飲む。
「ところで最後、何て言ったんだぃ」
 プロイセンは視線を上げる。仮面の向こうの目を探る。そして、鼻で笑った。


《エストニア×大英帝国》

 Youtubeで見たんだけどな、と電話がかかってきた。お前、アメリカと仲良いのかよ。イギリスの声はいつも不機嫌そうに聞こえるが、今日もまたそうで、逆にこの人泣かせてやりたくならないか、とエストニアは受話器を睨む。今度ハッキングしてやろうかな。王室のコンピューターをクラックしたら泣くかな。勿論、その勇気はない。「動画のコメント待ってますよ、酷評でも」 バカと言われて切られた。


《ロマーノ×ウクライナ姉ちゃん》

 スペインの恩恵だ、とこれだけは言ってやってもいい。絶対に言わないが。
「キスしたって」
 会議場から玄関へ続く長い廊下の途中でウクライナは立ち止まり、振り向いたそこにイタリア・ロマーノがいるのを認め、彼がこの言葉を吐いたのだと知る。ウクライナは笑う。笑って抱き締め、キスをする。小麦の香りがした。


《ろっさま×ベルギー》

 君の持ってきてくれたお土産、とても美味しいよ。ロシアの口調は普段と変わらない。会議場でもこのようなものだ。ベルギーは広い部屋の、遠い、大きな窓に目をやる。吹雪で何も見えない。昼か夜かも忘れてしまったかのような白い世界。
「あなたの家では帰りのチケットを用意してくれないのね」
 ロシアは微笑んで紅茶を勧める。広間には二人きりだ。寒い、とベルギーは震えた。


《貴族×めいぷる》

 楓の葉が降りしきる、赤い絨毯のような道を向こうから歩いてくるのはオーストリアで、カナダは先刻電話を貰っていたから彼の来訪を知っていたのに、それでも驚く。
「いただいたメイプルシロップで美味しいケーキが焼けましたので、お食べなさい」。
 バスケットにかかっていたハンカチを取り除くと、僅かに冷めかけた香ばしい、甘い香りが立ち上った。ケーキの上にも楓の葉が舞い降りる。
「じゃあ、とびきりの紅茶でも」
 いただきましょう、とオーストリアは先に立って歩き出す。この人は僕の家を知らないのに! それに聞いたよ、この間のG8で。この人、方向音痴なんでしょ? カナダは慌てて隣に並び、笑い出した。


《ハンガリー×イタちゃん》

 ハンガリーは困った顔で笑った。もう一人が怖くて眠れないという年頃でもないだろうに。でも彼女はドイツから聞いた。腕の中のこの子は、怖い夢を見たからと、泣きながら、ほとんど裸で彼の家まで走っていったのだ。今日はどうして私の家に来たの? 何が怖かったの? イタリアはハンガリーの胸に顔を埋め、寂しかったんだ、と小さな声で言った。ハンガリーは口を噤み、強くイタリアを抱き締めた。


《タイさん×親分》

 必要なものは米。スペインが家から持ってきたトマト。今日しめたばかりの新鮮な鶏肉。台所に男二人。「日本から習ったんやけどな、ほんま、これ幸せの味っていうん?」「素朴で美味しいですよね」「チキンライスって、名前、そのまんまやんなあ」「トマトはどこにいったんでしょうね」 そしてテーブルに二人前のチキンライス。自画自賛ではないけれど、チキンライスにはタイ米が合う。むっちゃうまぁぁぁあぁああぁ!とスペインが叫んで米がこっちまで飛んでくるが、褒められる嬉しさに、それも気にならないのだ。


《ドイツ×ラトビア》

 震える小さな子供が玄関先にしゃがみこんでいて、ドイツはひとまず少年を家に招じ入れ、プロイセンが構おうとするのにオーストリアの小言をもって対処し、少年に「…ビールはまずいか」熱いコーヒーを出す。少年はコーヒーを一口飲んで泣き始めた。しかしジャガイモとヴルストはもりもりと食べた。
「男なら泣くな」
 語調が強くならぬよう気をつけながらドイツは言う。
「そして、俺の家に遊びに来るのに遠慮はいらん」
 泣きやんだ少年は東へ向かい家路につく。最後に肩を叩いてやると、まだ弱々しい細い手で敬礼をした。


《リヒテンシュタイン×リトアニア》

 休憩時間の喧噪の中で、メイドでもないのに給仕をするリトアニアの手つきは優しく、リヒテンシュタインは視線を送る。自然と人に優しくあれる人なのだと、その振る舞いを見ただけで分かる。自分の前に出されたカップ。そして何事もなかったかのように去ろうとする手を両手で掴まえると、えっ、と声が聞こえてリトアニアは驚くほど顔を赤くしている。リヒテンシュタインは微笑み、ありがとうと囁いた。


《キューバ×にーに》

 港で船を待つ間、細い煙草をくゆらせれば、隣の大男は葉巻の煙を空に吹き上げる。「時代は変わったある」中国は独り言のように呟く。「人は流れる。思想も変わるある。その波」海を指さす「この煙と同じある」。「あんたは変わって見えねえが」。「そうあるか」。黒い指が伸びてきて煙草を取り上げる。代わりに葉巻が無理矢理押しつけられた。「これを吸ったら変わるかもしれねえな」。「煙一つで変わるあるか」。吸わねえと消えるぜ、とキューバは言った。中国は葉巻の煙を肺腑に吸い込む。船を待つ間、悠久の時さえ流れるかのように、港は静かだ。





一人楽しすぎた。