銀の葉





 あまりにも陽は強く葉は白く輝いて見えた。これが全て彼の欲しがる銀や絹であったら、私はそれを総て主に捧げてもっと綺麗な身体になれるだろうに。力強い命が私の中に湧くだろうに。もっと力が強ければ、私も自分の船でリスボアへだって行けるでしょう。
 部屋がぬるい。卓の上には茶碗が二つあった。片方は干され、片方は半分に減った薄い夕焼け色の液体の底、細い花弁が沈没した船のように沈んでいた。マカオは遠い記憶を思い出す。それは己のなりが幼かったばかりでそれなりに分別もあったころの記憶だったと思うけれど。空を映して灰がかった海の底、砂は空と真逆に白く、そこへ眠る船の残骸をマカオはいつまでも見つめていたのだった。打ち上げられた人も荷も全て乾いた土の上に引き揚げられたというのに。嵐はとうに去って、もう安心していいと…。
 ああ、とマカオは息を吐く。不安なのだ。不安を、胸からこぼしてしまっているのだ。見送ったガレオン船の航跡にあのかたの影を見出してしまった。死ぬのは人であって国ではない。しかし遠く大陸の端、かの国、かの都でマカオの愛しいあのかたは遠い東の海、人がひとり死ぬたび、斬られ、焼かれ、突き落とされ海の藻屑と消えるたび血を流しているのではないかと、自分を見ない憂い瞳を瞼の裏に描いて、目を開けばこの場所にたったひとりでいることが不安で仕方ないのだった。ここは私の港だけれど、私の身体もこんなに大きくなったのだけれど、どうして私は今でも淋しいのだろう。
 教会までの路は乾いている。砂埃が頬を打った。マカオは十字架の前に跪き、どうか太陽を照らしてくださいとお祈りする。子供じみた祈りでしょうか。でもどうか、私の目の前に光を投げてください。そうすれば私は銀色に光る葉を口にして、きっと強くなるでしょう。今すぐ自分の船を駆り、ガレオン船を追いかけてきっと愛しいあのかたの船を護るでしょう。たとえそこにあのかたが乗っていなくても。
 灯明は揺れもせず静かな光を放っている。暗い堂の床に跪き、マカオはステンドグラスに光が戻るのを子供のように待っている。






2016.9