Thank you and sadness





 お腹が空いたよ、とフェリシアーノは言った。橋は河口に沈む夕日に照らされ、影が濃く、長く伸びていた。
「菊が言うんだ。綺麗なのに寂しいですねって」
 菊の考えることは不思議だねえ、と笑うフェリシアーノの笑顔も、いつもの満面の笑みではなくて、少し寂しそうだ。
「ほら、ほら、お腹が鳴ったよ。夕食はお前の奢りがいいなあ!」
 くるくる回転する。そして転びそうになる。
 フェリシアーノは声を上げる。腕を伸ばす。その腕を掴んで引き寄せる。
 胸の中に軽い衝撃。押しつけられたフェリシアーノの顔。
 面が上がる。いつものように目を細め、フェリシアーノは笑う。
「グラーッツェ」
 その瞬間、ルートヴィヒの胸をよぎったのは哀しみだった。腕の中にフェリシアーノを抱きながら、彼は突然襲い来た感情に戸惑った。
 ぐう、と音がした。彼の腹に触ると哀しみが増した。親指を縛って、このまま海にでも沈みたくなる。橋から見える海は寒そうで、その寒そうな景色というのは必ずしも暗くなく、夕方なのに白く、ぽっかりと明るく、低く雲を敷き詰めた空も、空を映す海も真っ白なのに、眺めていると水色のようにも見えてくるのだった。
 しっかりと立たせ、並んで歩き出す。無言のルートヴィヒを見上げ、フェリシアーノが不思議そうな顔をするので、少し笑ってやった。綺麗なのに寂しい、か。本田の言葉に影響されたのかもしれない、と思った。






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