六月二日、午前二時のアナナス




 滅多なことでは起きないはずだが、真夜中に目が覚めた。それは爽やかなほどの覚醒で、イタリアは自分の目が冴えてしまっているのに戸惑いながら時計を見る。二時を少し回っていた。隣にドイツはいなかった。まずトイレを探す。しかしいない。寒いので毛布をずるずると引き摺りながら家の中を徘徊すると、台所に小さな明かりが点いていた。
「ドイツ?」
「……イタリア?」
 椅子に腰掛け項垂れていたらしいドイツは驚いたように顔を上げる。
「起きた……いや、起こしたのか…」
「どうしたの?」
「大したことではない」
 しかしタンクトップが汗で張り付いているのや、目の下の暗い影を見るに、それはあまりに明らかな嘘だった。彼は、イタリアが毛布を引き摺ってきたことさえ叱らないのだ。
 イタリアは毛布を余った椅子の背にかけると、冷蔵庫を漁る。野菜室からパイナップルが丸々一個出てくる。イタリアはそれをテーブルの上に乗せ、包丁の背で軽く自分の鼻先を叩いた。
「あんまり甘くないかもしれないけど、食べようか」
 ドイツが振り向く。イタリアはパイナップルに包丁を入れる。扇形に切り分けたそれを抓んでドイツの鼻先に持っていくと、ちょっとイタリアを睨んだドイツだったが、口を開けた。
「…悪い夢でも見たの?」
「どうだったかな。忘れた」
 嘘を吐くのが下手な癖に嘘を吐く。イタリアは自分も黄色い果肉を抓んで口に放り入れたが、すぐ顔をしかめた。
「すっぱいー」
「いや、甘い」
「嘘」
「甘いさ」
 ドイツが一切れ抓み、それをイタリアの鼻先に近づける。イタリアはドイツの青い目が笑っているのをじっと見つめながら口を開いた。
「…やっひゃり」
「食べてから話せ」
 イタリアは口の中のそれを飲み下すと、テーブル越しにドイツの顔を引き寄せ、黙ってキスをした。





これもできてない。