グラン・ブルー




 アメリカがブルーのグミをくれた。シーランドは空中に足を投げ出し、鼻歌を歌いながら地球色のそれを一つずつ抓む。空を見上げれば同じ色が広がっている。足下を見ても、やはり同じ色が広がっている。ブルーに包まれているのがシーランドの家だ。兵士が一人、銃を小脇にサンドイッチを頬張っている。あとは一人ぼっちだ。毎日が日曜日で、毎日が月曜日。毎日が週末で、子供にとっては退屈この上ない。
 兵士がチャンネルをいじったまま放り出した無線が、ビートルズを流している。
「ふん、どうせならマリリン・マンソンを流せなのですよ」
 シーランドはグミをもぐもぐ噛みながら呟いた。
 昨日の世界会議では、いつもうるさい程に世話をやくイギリスがこれっぽっちも振り向かず、それどころか日本とばかり話していて、完全に無視を決め込んだのだ。反対にアメリカがグミをくれた。
 海を口に入れてるみたい、とシーランドは思った。空を食べてるみたいですよ。多分、シー君は今、地球を丸飲みしちゃってるですよ。アメリカの野郎も、イギリスの野郎も、お腹の中です。
 ごろり、と横になる。グミはあと七個残っている。七つの海を食べてやるのだ。イギリスが紳士ぶって引退した七つの海制覇も成し遂げるのは今、このシーランドをおいてないのですよ!
「イカした曲、聞いてんな」
 固い靴音。シーランドは目を瞑る。そして七つのグミを一気に頬張る。
「何だそれ、アメリカのか。こら、ゴミを捨てるなよ。あと、菓子類食ったら歯ぁ磨け」
「うるさいのですよ」
「…んだよ生意気な。落とすぞ、おら」
 身体が抱え上げられる。
「離せなのですよ! 下ろせなのですよ!」
 大声を上げると、口の中のグミがころころと転がり出そうになり、シーランドは慌てて口を噤む。グミが一つ、唇に挟まれて、落っこちそうになる。
「ばぁか」
 口を開けたイギリスの顔が間近にある。シーランドはぎゅっと目を閉じる。舌が触れて、唇が触れて、グミが取られるのが分かった。
「…あっまいなあ」
 もぐもぐ言う音にイギリスもグミを食べているのだとうっすら目を開けると、なあ、と同意を求める声と共に軽くキスをされてしまった。
「…何ですか! 昨日はぼくのこと無視ぶっこいたくせに、急に保護者ぶりやがるですか。しかもキンシンソーカンですよこの変態!」
「ここに来る為に昨日は仕事を終わらせたんだろうが」
「そんなの知らねーですよ!」
「ああもう食いカス飛ばすなよ、汚ぇな」
 青いグミの欠片がついていたらしい頬を舐められる。
 ビートルズが歌う。ヘルプ! ヘルプ!
「さーて、今日の夕飯は俺が作ってやるからな」
「ほんとーにヘルプなのですよ!」
 どっちを向いてもブルー。明るいブルー。ぼさぼさの金髪が潮風に揺れる。緑色の瞳が細められ、笑う。シーランドはブルーの瞳をぎゅっと瞑り、べーっと舌を出した。