無自覚症ラプンツェル



 ハインリヒが仕事を終えて自分の住むアパートの前に戻ったのは月も中天に差しかかる
真夜中だった。ハインリヒの重さで不気味な軋みを立てる階段を五階まで昇れば、南側の
ドアがハインリヒの部屋だ。
 必要があるのか疑問な鍵を開け、中にはいると、開けっ放しの窓から風が舞い込んでカ
ーテンが大きくはためいていた。そのカーテンの影から覗く美しい弧を描いた月。
 部屋の中までも静かに照らす月の光に、電気を点けるのもためらわれ、ハインリヒはス
イッチに手を触れないまま部屋を横切ってカーテンを大きく開け、ベランダに出た。
「…………」
 しばらくとりとめの無い物思いに身を任せて目を閉じる。冷たい風が気持ち良かった。
「…?」
 聞き覚えのあるような音を聞きとがめて、それが自分の記憶の一つの音と重なったとき、
ハインリヒは反射的に身を翻して部屋の中に戻った。
 しかし、ハインリヒが部屋の電気を点ける前に、だんだんと大きくなったそのジェット
音は唐突に止み、代わりに足音がハインリヒに近づく。
「真暗なのにカーテンまで開いてるから、泥棒でも入ったかと思った」
「こんなボロアパートのしかも五階に好き好んで盗みに入る奴がいるか」
「アル目当ての奴ならするね」
「お前以外にこんなオヤジに執着する奴はもっといないだろうな」
 時々忘れそうになるが、そういえば町外れのこのアパートの最上階である五階をわざわ
ざ選んだのも、カーテンだけを閉めて窓を全開にしているのも目の前のアメリカ人のため
だった。
「執着じゃないって、愛情。ラブだぜラブ」
「……恥ずかしい奴だな」
 未だにこの恥ずかしいボキャブラリーに慣れない。ジェットのこのなんとも単純かつ直
截的な言動の数々は、アメリカ人だからという一言で片付けるには合衆国国民に失礼な気
がする。
「惚気たくもなるぜ? 俺のラプンツェルは髪の毛をたらす代わりに窓をいつも開けてい
てくれてる」
「俺の王子様に高さは関係ないからな」
 意趣返しとばかりに言い返してやれば、呆けたようなジェットの顔。
「何だ?」
 眉をひそめて聞くと返事の代わりに突然の抱擁。
「ッ!? ジェット!?」
「あんたって最高!」
「は? …お、おいちょっと待てどこに行く! 離せ!」
「寝室♪」




「何だって急に…」
 ハインリヒの少し掠れた呟きにジェットが閉じていた目を開ける。
「何でって…アルが可愛いこと言ったから」
「…言ったか?」
 いっこうに思い当たらないという風情のハインリヒの、額に張り付いた髪をかき上げな
がらジェットは苦笑した。
「『俺の』王子様発言は効いたよなぁ…」
「!」

                          END


おかしい…
シリアスを書くつもりだったのに(は?)。
男前なハインリヒを書くつもりだったのに(え?)。
何だかセットになっていない気がするは私だけじゃないですね、きっと。
鍵だけを開けてピーターパンを待つウェンディーの慎み深さ(?)を、私の書くハインリヒに
求めるのは無理のようです。窓全開かよラプンツェル…夏はどうか知らないが冬だったら凍死確実。
私が書く24は本当に2と4しか出てきません。001も003も009すら欠片も出ていないこの現状。
ジョー好きの春鮫さんには非常に申し訳ない出来です。ただでさえ待たせてるのに
ごめんなさいっ。
                          2002,10,11 西の空に土下座したい黎明


いえいえ、私こそちっとも24らしい24を書かなくてすみません。しかも4の登場しない24って
もう存在意義から抹消されそうです…(汗)。
貴女がのおかげで少しはここのゼロナイ小説も華やかになりそうです。ハインリヒっすよ、ハインリヒ!
ジェットとオールツーショットですよ!
ありがとうございました!
                          2002,10,24 東の空にお辞儀をする春鮫


ブラウザのバックボタンでお戻りください。